のらりくらり

 「何もハードモードの人生を選ばなくたって…」
幼い頃の私を知る同級生はそのように言い出す。


 私は小、中、高とストレートにいい子ちゃんを演じてきた。
影では人間性に問題のある大人や教師に苦言を呈しながらも、優等生を演じて内申点を稼ぐ姿を同級生達は見てきた。
同級生の言う通り、このままいい子ちゃんを通していれば、それなりの企業に就職して、それなりの箔のついた大人になっていただろう。
現に、私と同成績で似た境遇だった子達はもれなく上京して、有名企業に勤めて、独身生活を送っている。
だが、しかし。
私はそんなにできた人間ではなかった。
大学生になった頃には、いい子ちゃんをこれ以上継続するバイタリティも、目的も失ってしまっていた。
いざ親元を離れてみると、いい子ちゃんでいる意味がよく分からなくなってしまったのだ。


 私は「適当」に人生を送り始めた。
今までできなかったやりたい事をやって、お金が必要な時も運よく割のいい仕事が見つかったし、遊びの延長で仕事をしたりなんてことも。
最終的にはグレーな職業に就いたものの、持ち前の適当さでグレーや真っ黒な人間とつかず離れずの関係を築いて、スーッと現場から離れてこられた。
私はヘラヘラしながらもお金を頂いて、一人で気楽に過ごしてきただけに過ぎない。


 昔を知る同級生はこんな姿を見て、『普通に優等生を演じ続けていれば、フツーにOLやって、優良企業勤めの旦那さんと巡り合えたりしたんじゃないの?』なんて心配の声をかけてくるわけだ。
それが君らの思い描く幸せなのか?と逆に問いたいところだが、私はゴクリと言葉を飲み込む。
そういう陳腐でありきたりな想像しかできない人間には、今の私のリアルな近況も、夫の真実も教えたくはない。
逆に、私はハードモードどころか、チートでのらりくらりとやってきて、幸せを手に入れた。
夫が呆れて羨ましがる程のチートモード。


 こんな貧相な想像力しか持たない同級生に真実を話したらどういうことになるか…容易に想像ができる。
だから、私は特に地元の小・中の同級生に近況は話したくないのだ。
田舎では特に学力と経済力が比例する。
つまり高校に進学しなかった子は…。そして田舎ならではの嫉妬と確執というものは…。
そんなわけで、田舎の同級生にはリアルな近況は伝えていない。

 まあでも嘘をついているわけじゃないんだよ。
昔も今も、のらりくらりな生き方をしているのは変わりのない事実なのだから。