前科者。

 昔の会社でお世話になった方が、サラっと前科者になってしまっていた。
暴力沙汰だとかそういうのではない。
いわゆる詐欺ですな。

 彼との出会いは約6年前に遡る。
当時、彼は一世を風靡した某ネトゲ運営会社の取締役専務だった。
私の在籍していた会社が買収され、彼がうちの部署を見るようになったという流れである。
面倒見のいい人物で、従業員のケアもバッチリ、頭の切れる人物だった。

 しかし、まもなく、なんと本社が黒い繋がりのせいで倒産。
(この時の黒い繋がりの足かせは最後の最後まで付きまとうことになる。)

 彼は売上のよかった私達の部署を残し、新会社を立ち上げ独立。
新しいことにチャレンジし、時には無茶もし、オフィスも大きくなり、従業員も増えた。
給料の面でまったく不満もなかったし、みんなでこの居場所のいい会社を維持しようと頑張っていたぐらいだ。
ただ、私達は裏で行われていることにまったく気づいていなかった。

 本社が黒い繋がりで倒産した時に○○○から頂いた、ありがたくないお土産がまだまだついて回っていたのだ。
脅しに負けず、握られた弱みを買い戻すために必至に頑張っていた彼。
しかし、相手は一枚上手だった。
株主総会の総意ということで、新会社を無理矢理凍結状態にしてしまったのだ。
給料は未払いの上、オフィスは閉鎖、顧客対応ももちろんできないので、その間にもバンバン返金要求がやってくる。
一番痛い形で強制終了させられてしまった。

 彼はその後、○○○の要求する額を工面するために奔走する。
○○○の使いっぱしりみたいなことをさせられていると嘆いていた。
が、しかし、ナゾが残る。
前責任者が背負った、法的な効力のない融資や出資を彼が返す義理ってあるんだろうか?
ここらへんのことがまーったく分からない。

 そんなこんなで1年程経った頃だろうか?
テレビで彼の名前を見かけた。
容疑者として連行される姿だった。
○○○の使いっぱしりをさせられているとは聞いていたけど、リスクの高い種類の詐欺、しかもこんなにみみっちい詐欺だなんてやらされて。

 残念な気持ちとともに胸騒ぎが止まらなかった。
なぜって○○○が別件で逮捕されたという噂をすでに耳にしていたからだ。
業界では○○○の悪行は有名で、余罪なんて他にたくさんあるということは周知の事実だった。
彼の容疑はとても小さな物だったが、彼の逮捕の前後に○○○が再逮捕されていたということは…
つまり○○○側のなんらかの容疑を固めるための別件逮捕なんだろう。

 なぜこんなことになってしまったんだろう。
弱者がいつも被害を被るんだな。
正義は勝つって学校で教えられるけど、実社会に出ると違うよ。
悪い奴が圧倒的に生き残ってる。
なんなんだろうね。